令和8年度診療報酬改定をデータで読む|施設基準届出から見えた医療現場の動き

令和8年度診療報酬改定を施設基準届出データから分析し、医療現場の動きを解説するEXE DATA INSIGHT記事のサムネイル画像

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Excelの最大行数を超えた施設基準届出データ

2026年6月1日、令和8年度診療報酬改定が施行されました。

その後、各地方厚生(支)局のウェブサイトでは、改定後初となる「届出受理医療機関名簿(医科)」が順次公開されました。

EXE MEDICALでは、各地方厚生(支)局が公表する施設基準の届出情報を毎月ダウンロードし、全国分を一つのデータへまとめる作業を約8年間続けています。

令和8年度改定に伴う届出や再届出が反映され始めてから、全国の医科データは、Excelの1シートに収められる上限である104万8,576行を超える状態が続いています。

今回公表された改定後初の一覧も、一つのシートには収まらず、二つに分けなければ保存できない規模でした。

その膨大な届出の中には、国が今回の改定で医療機関に求めたことと、医療機関が実際に選んだ対応が表れているのではないか。

今回は、全国分を統合したデータのうち、算定開始年月日が2026年6月1日以降となっている28万2,715件、7万9,432医療機関分を対象に、改定直後の動きを分析しました。

なお、名簿に記載されている日付は、医療機関が書類を提出した日ではなく「算定開始年月日」です。今回は届出の早さではなく、改定直後にどのような制度への対応が始まったのかを見ていきます。

国が制度で求めたことを、医療経営のプロはどう見たか

一般社団法人DOC TOKYOが運営し、株式会社エグゼメディカルが運営事務局を務める医療機関経営情報サイト「DOC WEB」では、Podcast「院長が悩んだら聴くラジオ」を配信しています。

番組では、医療業界と医療機関経営の実務に精通する二人が、診療報酬改定やクリニック経営の課題について、制度の説明だけでは見えにくい背景まで掘り下げて解説しています。

今回の改定についても、複数回にわたり取り上げてきました。

賃上げについては、初診料や再診料を一律に引き上げるのではなく、届出と報告を必要とするベースアップ評価料を通じて、医療機関に具体的な対応を求めているのではないか。

医療DXについては、医療情報を電子化して蓄積する段階から、電子処方箋や電子カルテ、医療機関間の情報共有を、実際の診療に活用する段階へ移ろうとしているのではないか。

充実管理加算については、データを提出したこと自体を評価する仕組みから、蓄積したデータを用いて診療実績を評価する仕組みへ移ろうとしているのではないか。

「院長が悩んだら聴くラジオ」では、今回の改定を単なる点数の増減としてではなく、国が医療機関にどのような行動を求めているのかという視点から読み解いてきました。

院長が悩んだら聴くラジオのPodcast・テキスト記事はこちら

では、実際の医療機関はどのように動いたのでしょうか。

今回のEXE DATA INSIGHTでは、番組で示された制度への見方を一つの手掛かりとして、改定後初の全国施設基準届出データと照らし合わせます。

取り上げるのは、職員の賃上げを促すベースアップ評価料、医療DXへの対応を段階的に評価する電子的診療情報連携体制整備加算、診療実績を評価する仕組みへ移行しようとしている充実管理加算の三つです。

賃上げでは、継続して取り組んだ医療機関による広い届出

今回のデータでは、外来・在宅ベースアップ評価料に関する届出が、6万3,485医療機関で確認されました。

そのうち、継続的な賃上げに取り組んでいる医療機関などを対象とする追加評価の届出は5万6,419施設で、全体の88.9%でした。

ただし、これは今回の改定を受けて、約9割の医療機関が新たに賃上げを始めたという意味ではありません。

令和8年度改定では、以前から継続して賃上げを行っている医療機関と、それ以外の医療機関に異なる評価を行う仕組みが設けられています。

今回、継続的な取り組みに関する届出が広く確認されたことからは、前回改定で賃上げに対応した医療機関の多くが、今回の制度にも対応したと見ることができます。

新たな取り組みを促すだけでなく、一度始めた賃上げを継続させることも、制度の狙いの一つと考えることができそうです。

一方、施設基準の届出情報だけでは、実際の賃上げ額や職員の処遇がどの程度改善されたかまでは分かりません。届出数は制度への反応を知る材料であり、成果については今後の実績も含めて見る必要があります。

医療DXへの対応は広がったが、現在地には差がある

電子的診療情報連携体制整備加算では、医療機関のDX対応を三つの区分で評価します。

分かりやすく表すと、次の三段階です。

・マイナ保険証の利用や診療情報を確認できる環境を整えた段階
・電子処方箋や電子カルテなど、一部の情報連携まで進んだ段階
・複数の仕組みを組み合わせ、より広く診療情報を活用できる段階

制度上は、対応している仕組みが多い順に「電子的診療情報連携体制整備加算1・2・3」と呼ばれています。

今回のデータでは、外来の同加算に関する届出が、全国6万575医療機関で確認されました。

同一医療機関に複数の届出がある場合は、確認できた最新の区分を一つ採用しています。

・加算3:3万526施設、50.4%
・加算2:2万7,617施設、45.6%
・加算1:2,432施設、4.0%

基本的なDX対応は、全国の医療機関に広く及んでいることが分かります。

一方、電子処方箋や電子カルテ、医療機関間の情報共有など、複数の仕組みを運用へつなげている医療機関は、まだ限られています。

新しいシステムへの対応には、導入費用だけでなく、院内の業務手順を見直し、職員が利用できる状態を整えることも必要です。制度として推進されていても、すべての医療機関が同じ速度で進むとは限りません。

また、最上位の加算1だけが、企業にとって価値の高い対象とは限りません。

すでに複数の情報連携基盤を整えている医療機関に注目する見方もあれば、これから電子処方箋や電子カルテ、業務効率化へ進む可能性のある医療機関を見る考え方もあります。

どの区分を重視するかは、製品やサービス、調査の目的によって変わります。施設基準の区分は医療機関の優劣ではなく、現在どの段階にあるのかを考える手掛かりの一つです。

「加算2がゼロ」という数字をどう読むか

充実管理加算の届出は、520医療機関で確認されました。

内訳は加算1が58施設、加算3が462施設で、中間の加算2は一件も確認されませんでした。

三段階の制度であるにもかかわらず、中間の区分がゼロという結果は、一見すると不自然に見えます。

しかし、制度の移行スケジュールを確認すると、その理由が見えてきます。

充実管理加算は、生活習慣病患者への診療実績を基に、上位20%に該当する場合を加算1、上位50%に該当する場合を加算2、それ以外を加算3として評価する仕組みです。

ただし、制度が始まったばかりの現在は、多くの医療機関で実績を判定するためのデータが十分に蓄積されていません。

新たにデータ提出を始める医療機関は、まず加算3を算定し、所定の期間を経て実績に基づく区分へ移ります。一方、旧制度から継続している一部の医療機関には、加算1の実績要件を満たすものとして扱う経過措置があります。

つまり、加算2がゼロなのは、中間程度の実績を持つ医療機関が存在しないことを示すものではありません。本格的な実績評価が、まだ届出区分に反映される段階に至っていないことが影響しています。

現時点の数字は結論ではなく、今後の変化を見るための出発点と捉えることができます。

複数の制度に対応する医療機関は重なっていた

充実管理加算を届け出ている520施設のうち、487施設で医療DX関連の届出が確認されました。

473施設では、外来・在宅ベースアップ評価料に関する届出が確認されました。

賃上げ関連と医療DX関連の両方に対応している施設は444施設で、充実管理加算を届け出た医療機関の85.4%を占めています。

また、医療DX関連の届出がある施設のうち、71.6%で、継続的な賃上げに関する届出も確認されました。

複数の制度に対応している医療機関が、新しい製品やサービスの導入にも積極的であるかどうかは、このデータだけでは判断できません。

ただ、制度変更への対応には、内容の理解、院内での意思決定、体制整備、期限内の手続きが必要です。

複数の施設基準への対応状況は、医療機関の制度対応力や組織体制を考える際の、一つのシグナルになり得ます。

すでに体制を整えた医療機関を見るのか。これから次の段階へ進む可能性のある医療機関を見るのか。どの届出を組み合わせるかによって、抽出される医療機関群は変わります。

まとめ

今回のデータからは、国が示した方向に対して、すべての医療機関が同じ段階まで対応しているわけではないことが確認されました。

賃上げでは、前回から継続して取り組んできた医療機関による広い届出が見られました。

医療DXでは、基本的な体制が全国に広がる一方、複数の情報連携を運用へつなげている医療機関は限られています。

充実管理加算は本格的な実績評価へ移る途中にあり、現在の届出数だけで制度の成否を判断することはできません。

施設基準届出情報は、医療機関が現在備えている機能や体制を確認するためのデータです。

さらに、区分の違い、複数項目の組み合わせ、その後の変化を見ることで、医療機関がどの課題に対応し、現在どの段階にあるのかを考える材料にもなります。

診療科、病床規模、所在地、法人区分、開設時期などを組み合わせれば、特定の条件に該当する医療機関群を把握することもできます。

ただし、施設基準の届出だけで、医療機関の経営方針や製品の導入意向まで判断することはできません。

施設基準は答えそのものではなく、医療機関を理解するための情報の一つです。どの届出に着目し、どの情報と組み合わせるかによって、データから見えてくるものは変わります。

EXE DATA INSIGHT Editor’s Note

今回の分析のきっかけは、全国の施設基準届出情報が、Excelの最大行数を超える規模になっていたことでした。

ただ、データの価値は、その量だけにあるわけではありません。

制度の背景と照らし合わせ、届出の区分や組み合わせを見ることで、数字の向こうにある医療機関の現在地を考えることができます。

今回ご紹介した内容も、施設基準データから考えられる一つの見方です。

EXE MEDICALでは、全国の施設基準届出情報と医療機関基本情報を組み合わせ、ご希望の条件に応じた医療機関データを提供しています。

「自社の製品やサービスに関連する施設基準が分からない」

「どの条件を組み合わせれば、対象となる医療機関が見えてくるだろう」

そのような段階からでも、ご相談ください。

施設基準を単なる届出情報ではなく、その先の市場や医療機関の動きを考えるためのデータへ。

EXE MEDICALは、そのためのデータづくりをお手伝いしています。

関連コンテンツ

「院長が悩んだら聴くラジオ」では、今回取り上げた制度について、医療機関経営の視点から詳しく解説しています。

・賃上げ・ベースアップ評価料に関する解説
https://note.com/dear_lion621/n/nd5cefabb093f

・電子的診療情報連携体制整備加算に関する解説
https://note.com/dear_lion621/n/nb957d324c87e

・充実管理加算に関する解説
https://note.com/dear_lion621/n/na2d54c2ace28

集計について

本稿の集計は、各地方厚生(支)局が公開した「届出受理医療機関名簿(医科)」の全国データから、算定開始年月日が2026年6月1日以降の明細を抽出して行いました。

同一医療機関の判定には、都道府県コードと医療機関番号を使用しています。

医療DX関連の区分別集計では、同一医療機関に複数の届出がある場合、確認できた最新の算定開始年月日における区分を採用しています。

本文では分かりやすさを優先し、電子的診療情報連携体制整備加算3を「基本的な対応」、加算2を「一部の情報連携まで進んだ段階」、加算1を「複数の仕組みを活用する段階」と表現しています。これらは制度上の正式な呼称ではありません。

また、本データは公表時点における施設基準の受理状況を示すものであり、実際の算定件数、製品やサービスの導入意向、医療機関の経営状況を直接示すものではありません。