病院・クリニックを取り巻く経営環境の変化#4

<クリニックにおけるロイヤルカスタマー戦略>

長引くコロナ禍で、患者の増減が新型コロナの感染状況に大きく影響され、クリニックのかじ取りがますます難しい時代となりました。どうすれば安定的に患者数を維持するかということをクリニックは真剣に考えなければならない状況下にいます。安定的な患者数確保のカギは、「ロイヤルカスタマー」という考え方にあります。

本連載では、医療系企業様に向けて医療機関を取り巻く経営環境の変化をテーマに、病院やクリニックが今考えていることや医療企業が考えなければいけないことを4回に渡ってお送りしております。


<#1はこちらから>

ロイヤルカスタマーとは?

「ロイヤルカスタマー」とは、常連さんのように定期的に来てくれる患者とは、少し異なる考え方です。
クリニックに対して、深い愛着を持ち、継続利用してくれ、何かあったら必ず相談に来院され、家族・友人・知人を紹介してくれる患者となります。政府が目指す「かかりつけ医」のあるべき姿と言ってもいいでしょう。

このロイヤルカスタマーを増やすメリットは、
①患者数が安定する
②良質なフィードバックをくれる
③未来のロイヤルカスタマーを紹介してくれる

などがあります。コロナ禍でインターネットが急激に普及した現在では、良い口コミを集めることがクリニックの集患戦略において重要になっています。ロイヤルカスタマーは進んで口コミを書いてくれるでしょう。また、自分のお気に入りのクリニックですから、家族はもちろん、友人・知人に喜んで勧めてくれるのです。

ロイヤルカスタマー創造の第一歩

コロナ禍で「LINE公式を始めた」というクリニックは増えましたが、一旦始めたものの思うように登録者が増えないという声もよくお聞きします。患者にとって、LINEのお友達登録は高いハードルがあるようです。

LINEのお友達登録は、ロイヤルカスタマーへの第一歩です。ロイヤルカスタマーを増やすのと、LINEの登録者数を増やすのは似たところがあります。いずれにしても、登録者にとってのメリットをどれだけ提供できるかが重要になります。
LINEの登録者数を増やすための方法は様々な書籍が出ていますので参考になります。また、医療以外の業界の事例、例えば飲食店などがどう取り組んでいるのかを研究することも大切です。
登録者数を増やすためには、患者に対して、「お友達登録のメリット」をしっかり伝える必要があります。そのためには、ランディングページやサイネージでの案内、QRポップなどを用意することで、患者に「認知」をしっかり図ることが可能です。

また、Web予約やWeb問診と組み合わせて行うことも相乗効果が発揮できます。
LINEから予約をし、問診を入力する流れを作り、来院時間になったらLINEにお知らせが届く。LINEですべてが完結できれば、患者の利便性は飛躍的に向上します。(最近はLINEしか見ないという方も増えています。)
また、日々の運用には患者さん向けにコンテンツ(耳よりの情報)を作る必要があります。しかしながら、なかなか院内にはそれほど多くのコンテンツが存在しているわけでもなく、すぐにネタ切れが起きてしまいます。そんなときのために、独自のコンテンツを提供するサービスもあります。

クリニックがLINEを使う最大のメリット

LINEのメリットは、クリニックから情報をプッシュできることにあります。
これが最も大きなホームページとの違いです。ホームページはプル型メディアであるのに対し、LINEなどSNSはプッシュ型メディアと言えます。

例えば、「コロナワクチンのキャンセル枠のお知らせをしたい」と考えた時、ホームページであれば、その情報にたどり着くまでに時間がかかりますし、ホームページに訪問した人にしか情報は伝わりません。その枠はなかなか埋まらないことでしょう。
一方、LINEであれば登録者に一斉配信が可能ですので、患者個人に対し、しっかりと情報を伝えることが可能なのです。また、Web予約と連動していれば患者さんからの反応が予約となって即時に戻ってくるようになります。この仕組みは、新サービスを始める際にも大いに有効です。
しかしながら、クリニックのお知らせが毎日のように来ては、患者さんは煩わしいと考えますし、患者にとってメリットのない情報は迷惑になってしまいます。月1回程度の情報提供にとどめるということも大切でしょう。
クリニックとしては、営業にならないように気をつけなければいけないポイントとなります。

まとめ

LINEはあくまで「ロイヤルカスタマー」を増やすための入り口に過ぎません。
真のロイヤルカスタマーを育てるためには、「患者満足」を高め、繰り返し利用(リピート)いただき、しかも喜びの声を「口コミ」にしていただけ、お願いもなく周囲に言いふらしてくれる存在になっていただかなければなりません。

そのためにクリニックは、患者との最初の接点である「予約から問診」、リアルな接点である「受付」、実際のサービスとしての「診察、検査」。そして次回につなげる「会計、精算」。このすべてにおいて最高のサービスを行う必要があるのです。クリニックの院長は、この一連の流れの指揮者としてタクトを振り、プロデュースをする必要があります。

本連載では、4回に渡ってコロナ禍における病院・クリニックを取り巻く経営環境の変化についてお伝えしました。
医療企業は、クリニックが今考えていること・課題・実現しようとしていることを念頭に置いて、
製品、サービスのご案内をしていけばいいのではないでしょうか。

プロフィール

コンサルタント紹介 大西大輔
大西大輔 (おおにし だいすけ)
担当分野
クリニックのICTプロダクトのマーケティング戦略

医療ICTの普及、基盤整備に貢献することで、全国民が、質の高い医療サービスを継続して享受できる社会を実現する。

経歴
過去3000件を超える医療機関へのシステム導入の実績から、医療系の公的団体を中心に講演活動および執筆活動を行っております。また、診療所・病院・医療IT企業のコンサルティング行っています。

2001年 一橋大学大学院MBAコース修了
2001年 医療系コンサル会社に入社
2002年 医療IT総合展示場「メディプラザ」設立
2007年 東京、大阪、福岡の3拠点を管理する統括マネージャーに就任
2016年 コンサルタントとして独立し、「MICTコンサルティング」を設立
2018年 MICTコンサルティング株式会社を設立(法人化)
2019年 一般社団法人リンクア(医院教育)を設立